経営者候補の選抜と育成 日立製作所 リーダーは「選ぶ」のではなく「創り込む」トップの強い関与と後ろ盾が不可欠

グローバル化を急速に推進し、業績をV字回復させた日立製作所。グローバル・リーダーシップ・ディベロップメント(GLD)というプログラムを始動して5年、主要グループ会社で40代の社長が生まれたという。どのように経営人材の育成を推進していったのだろうか。同社 グローバル人財開発部長の迫田雷蔵氏にお話を伺った。

迫田雷蔵氏
株式会社日立総合経営研修所 取締役社長 兼 株式会社日立製作所 グローバル人財開発部長 兼人事教育総務センタ 総合教育センタ長


人事制度や情報をグローバルで一元化

一時、世界を席巻した日本の電機各社が軒並み苦境に陥るなか、日立製作所が気を吐いている。それまでの総花路線をきっぱり止め、電力や鉄道といった社会インフラ事業に大きく舵を切る一方、グローバル化を急速に推進、2009年の大赤字から業績をV字回復させた。自社を「IoT時代のイノベーションパートナー」(2018中期経営計画)と規定すると共に、積極的に企業買収を進め、海外売上高比率は48%に上る。社員は国内17万人に対し、海外13万人(いずれも2016年度)。どちらの比率も逆転が時間の問題となっている。

事業のグローバル化は人財のグローバル化があって初めて成り立つ。そこで、グループ各社別、国別に分かれていた人事制度や施策を、グループおよびグローバル共通のものに作り変えた。2011年のことだ。翌2012年にはグローバル人財データベースを構築し、全世界の従業員25万人分の情報を一元管理できるようにした。

重要ポジションを特定し志をもった人財を育てる

こうした基盤を整えた上で、従来とはまったく異なる手法での次世代リーダーの育成に乗り出した。

グローバル人財開発部長の迫田雷蔵氏が話す。「2000年からリーダー育成プログラムを走らせていたのですが、『遅い』という問題がありました。優秀な係長クラスから課長を選び、優秀な課長から部長を選び……という育成の仕方でしたが、それでは事業部長、部門長を経て、社長になるときは60歳を超えてしまう。海外の企業では40代のトップがざらですから、われわれも体力、気力に満ちた若いリーダーを創っていかざるを得ない。また、グローバルに事業を推進していくためのリーダーの数も質も、決して十分とはいえませんでした。そこで、適任者を『選ぶ』ことから、ふさわしい人財を若いうちから『創り込む』ことへ、やり方を刷新したのです」

それが2012年から走らせているグローバル・リーダーシップ・ディベロップメント(GLD)というプログラムだ。

具体的には、(1)リーダーが就くべき重要ポジションを選定する、(2)そのポジションにおいて求められる役割と人財要件を定義する、(3)それぞれのポジションごとに候補者を選抜する、(4)候補者の強みと弱みを評価(アセスメント)する、(5)その評価に基づき、個別の育成プランを策定・実行する、という5ステップを経る。

最後の育成プランの中心になるのがタフアサインメントだ。ライオンがわが子を千尋の谷に突き落とすように、ハードな仕事を与えるわけだ。

重要ポジションのうち、社内カンパニーやグループ主要会社の社長など、特に重要なポジションを選定した上で、そうしたポジションに就けるべき候補者がまず約500名、選抜された。「ただ、この規模では各人にきめ細かな配慮を行うのが難しいので、そのなかから約100名を選び、次世代の経営者候補としてプールしています。顔ぶれは固定ではなく、毎年見直しを行います。当初は35歳を目標においていましたが、いまはもっと若くなっています」

どんな人財が候補者になるのだろうか。「特に重視しているのがコンピテンシーで、具体的には、(1)顧客にとっての新たな価値を創出する、(2)勝つシナリオを創る、(3)決断する、(4)目標を決め、結果を出す、(5)ビジョンを示し、共感させる、(6)勝てるチームを作る、(7)メンバーを奮い立たせる、の7つ。よくいうように、自ら前に出て行くと共に、周囲も奮い立たせ、その気にさせるリーダーです。それに加え、われわれが重視するのが志をもっていること。人から何を言われようが決してぶれない自分なりの判断軸です。いまはまだ日本人が大半を占めていますが、将来は外国人の比率をもっと増やしていきたい」

評価については、まず日立本社の社長が参加したランチミーティングで行う。外部機関によるアセスメントや人事によるインタビューもある。

5年目にしてようやく40代トップが2人、誕生

候補者の見直しや育成プランについては、社長、人財担当役員、それに部門長と人事のトップが参加する人財委員会において議論される。委員会は年に20回以上開かれるというから驚く。そうした議論を経て、具体的な一つひとつの人事が決まっていく。

こうした人事が選ばれなかった社員のモチベーションを下げるというデメリットはないのか。それに対して、迫田氏は明確に否定する。「まず比率の問題です。 30万人のうちの500名、あるいは100名なので、選ばれるのはごく例外といっていい。しかも、誰もが社長になりたいと思っているわけではありませんから、選ばれた人を羨望の目で見るのはごく一部でしょう。もう1つは、相応の苦労がついてくること。抜擢された後に、新事業の立ち上げ、他社の買収や提携の推進や買収、不振事業の立て直しなど、タフなアサインメントが必ず待ち構えているからです」

プログラムが始動して5年、ようやくこの4月に目に見える成果が表れた。主要グループ会社で、40代の社長が生まれたのだ。

本社の情報部門から、家電関係のグループ会社のトップに、さらに日立化成から、電力部門の中核となるグループ会社のトップに、それぞれ就任した。

「両人とも若い頃から目立っていた各々の部門のエースであり、動かすのはなかなか大変でしたが、最終的には、本社トップが強いリーダーシップを発揮し、各々の部門トップと話し合いを重ね、実現することができました。多様な経験を重ねないと、大きく育たない、変化に対応し、変革をリードできる強いリーダーに育たないということが、ようやく共通の認識になってきたように思います」

人事を変えるには人事が変わる必要あり

一方、この裏にはそこから漏れてしまった人財がいる。こうした大胆な人事を続けていくことは難しいことではないのだろうか。「今回の人事に関しては、社長交代に合わせた人事なので、大きな影響はないといっていいでしょう。もし次は自分が社長になれると思っていた人がいたとすれば、がっかりしたかもしれませんが、やむを得ません。それから、タフアサインメントはポジションにはこだわりません。プロジェクトリーダーや事業立て直しの責任者など、仕事ベースで考えればいくらでもあります」

日立は指名委員会等設置会社であり、こうした経営者候補の決定には指名委員会のメンバーも関わっている。「指名委員は4名いて、うち3名が社外の方々です。その人たちと候補者とを会わせ、議論する場をできるだけ作っています。彼らもどんな若手のリーダーがいるのか、と興味津々です。これは世界で戦っていけるリーダーだと彼らが太鼓判を押してくれるような人財をわれわれが育てていかなければなりません」

年功序列、終身雇用の典型的なザ・日本企業というイメージがあった同社で、こんな革新的人事が可能になったのはトップの強い関与と後ろ盾抜きには語れないことが話の端々から窺える。

もう1つ、こうした施策が成功している理由として、迫田氏は人事の体制を挙げた。「人事制度の統一から始まった一連の改革はグローバルチームで行っています。一堂に会するのは無理なので、バーチャルチームを組織し、英語で議論して成し遂げました。スタートした時点こそ日本人がリーダーでしたが、いまのリーダーはアメリカ人です。日本人だけでやっていたら、ここまでドラスティックにはならなかったでしょう」

人事を変えるためには、まず人事自身が変わらないといけないという教訓だ。

【text:荻野進介】


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.48 特集2「なぜ経営人材育成は行き詰ってしまうのか」より抜粋・一部修正したものである。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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